不登校の初期対応でうまくいった秘訣。 それは、優しさと厳しさのバランスである。

 平成29年度の文部科学省の調査によると、小中学生の不登校児童生徒数は、14万4031人で過去最多を記録しています。

 今、教師として、不登校の問題に、どう取り組むのか。とても重要な問題だと思います。

 不登校対策の研修に行った際、とても衝撃的な事実を知りました。

 それは、子どもが休むきっかけとなる理由と、その後、長期的に休んで不登校になる理由が同じではないということです。

 例えば、友達関係のトラブルで学校に行けなくなったケースで、最初は人間関係が問題だったのに、長期的に休むことで授業についていけなくなり、結果的に、学力不振で不登校になるということです。

 つまり、不登校児は初期対応が重要で、長期化すると様々な問題が重複していくということです。

 私自身、たくさんの子ども達の「学校に行きたくない。」という気持ちに対応してきました。初期対応でうまくいったケースを紹介したいと思います。

 このケースが、全ての子ども達に当てはまる訳ではありませんが、少しでも参考になればと思います。

 2年生を担任した頃の話です。
 ある日の朝、保護者の方から連絡が入りました。
 「先生、娘(Aさん)が学校に行きたくないと言っています。どうしたらいいですか。」

 第一段階として、 「家庭訪問に行きます。」と伝えました。その後、管理職や学年主任に状況を伝え、学級の自習措置をしました。不登校の問題は、組織で対応することが必須条件です。

 家庭訪問の目的として、「Aさんは、私にとっても、学級にとっても、大切な存在です。だから、あなたを迎えに飛んできました。」というメッセージを伝えるためです。

 自宅に着くと、Aさんは、学校に行く準備をして、私を待ってくれていました。不安そうな表情でしたが、自分のために、先生が駆けつけてくれたことを喜んでいる様子でした。

 Aさんは、「図工の学習で、カッター使用が不安だから学校に行きたくない。」とのことでした。教壇の近くで学習することを提案したら、目の前の問題が解決して、学校に行くことができました。

 そして、昼休みに、Aさんの『本当の気持ち』を聴くために、Aさんと向き合いました。

 Aさんが、今、必死に私や保護者の方に分かってほしいと思っている『本当の気持ち』がどこかに隠れているはずです。Aさんの心の中の真実の扉を探しました。

 そして、やっとAさんの『本当の気持ち』を見つけました。

  • 兄が不登校になっており、兄が学校を休むことに対して羨ましいと思っている。
  • 妹に知的障害があり、両親は対応に追われている。私にもかまってほしい。淋しい。
  • いつも、自分ばかり我慢をしていて苦しい。もう、我慢できない。

 Aさんが今までたくさん頑張ってきたこと、もう限界になったことなど、Aさんの溢れる思いを受け止めました。

 そして、Aさんの心が元気になるように、一緒に色紙を使ってお守りを作りました。Aさんは、お守りを見て『自分のことを大切に思ってくれている先生がいる。』と感じてくれたようで、満面の笑みを浮かべていました。

 放課後、Aさんの保護者の方と面談をして、Aさんの状況と、今後の対応を話し合いました。

【Aさんの状況】
  1. Aさんの兄弟の間で悩んでいること。
  2. 一緒にお守りを作り、Aさんを大切に思っていることを伝え、喜んでいたこと。
  3. 兄の不登校対応とAさんの対応は根本が違うので、それぞれの対応が必要であること。Aさんの場合は、今、頑張って学校に行くことで、問題を乗り越えて行けること。
【今後の対応】
  1. 明日から、学校に行きたくないといった場合、行きたくない理由を聞く。Aさんが登校を嫌がっても、学校に連れてきてほしい。今が一番頑張り時であること。
  2. 毎朝、担任が家庭訪問をすることは、担任不在で学級が崩れる可能性があるので、基本的に学校でAさんを待ちたいということ。
  3. 今後も、Aさんは色々な理由をつけて登校を渋る可能性があるので、長期戦になる覚悟で、焦らず、ゆっくり対応して、担任と保護者が疲弊しないように気をつけること。
  4. Aさんの心のコップはいっぱいになっているので、担任と保護者の方が連携して、随時、Aさんの心の声を聴くこと。
  5. Aさんが学校に来たら、全面的にサポートして、Aさんにとって学校が楽しい場所になるように最善を努めること。

  保護者の方は、学校の様子や明日からの対応が分かり、とても安心されました。そして、保護者の方と担任が手を取り合って、Aさんのために、ゆっくり頑張っていくことを確認しました。

 面談終了後、管理職や生徒指導主事、学年主任に報告をしました。Aさんの状況や保護者の方と話し合ったこと、今後、Aさんに対応する必要がある場合、学級の管理をお願いしたいことなどを伝え、学校組織としての協力を得ることができました。

 次の日。予想通り、Aさんが「学校に行きたくない。」と電話がありました。今回は、下校時の友達とのトラブルでした。「昼休みに話を聴くので、学校に連れてきてほしい。」と伝えました。

 朝の会の時に、保護者が頑張ってAさんを連れてきました。私は、笑顔で迎え、学級のみんなも温かく迎えてくれました。そして、昼休みに、友達とのトラブルを解決しました。

 Aさんは、「先生、お母さんがお守りを作ってくれました。」とフェルト生地で作られた手縫いのお守りを、とても大切そうに私に見せてくれました。

 「お母さんのたくさん愛がつまったお守りだね。よかったね。これで、毎日、元気パワーをもらえるね。」と伝えると、とても嬉しそうな笑顔のAさんでした。

 放課後、保護者の方に電話をして、Aさんがお母さんのお守りを喜んでいたことや問題を解決したことなど伝え、温かい電話となりました。

 このように、長期戦を覚悟に、保護者の方と面談や電話をしながら、日々、協力をして問題に向き合い、お互いに支え合い、疲弊することなく終えることができました。
 Aさんは、不登校になることなく無事1年を終えることができました。

 私は、不登校の初期対応は、まず、子どもに『あなたが大切』というメッセージを送り、優しく包み込むことが大事だと思います。

 次の段階として、学力不振にならないように、無理をしてでも学校に来させる厳しさも必要だと思います。そして、無理にでも学校に来させてるということは、担任は全力でその子を守り、支え、一緒に乗り越えていくことが大事です。
 
 ただし、Aさんのお兄さんのように、不登校として長期化した場合は、無理矢理に学校に行かせても悪化してしまう可能性があります。だからこそ、不登校の指導は、それぞれの子どもに合った対応を模索していく必要があります。

 今回、Aさんの心に一番届いたものは、お母さんの手作りのお守りだと思います。Aさんは、きっとお母さんが自分のことを大切に思ってくれていることを再確認できたと思います。

 お母さんの子どもを思う気持ちが、子どもにとって一番の元気の源になります。

 教師は、子どもの『本当の気持ち』を見つけ、家族に伝える。そのことで、家族や親子の絆が、またぐっと強くなる。

 教師は、子どもと親や家族の架け橋になる。

 教師の大切な役割かもしれません。

 料理も塩と砂糖のさじ加減が大事なのと同じで、人間も優しさと厳しさのバランスが大事なのではないでしょうか。

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