「失敗がその人を決めるのではない。
失敗した後、どう動くかで、人は決まる。」
私が、子ども達にいつも伝えていたメッセージです。
4年生の担任をした頃の話です。
私が放課後、教室で仕事をしていました。
日の入りも早くなり、薄暗い廊下を一人の男の子が歩いてきました。
クラスの男の子(Aくん)でした。
いつも元気なAくんが、すごく落ち込んで教室に入ってきました。
話を聞くと、「学校の校門付近においてあったコーンバーを、ふざけて飛び越えようとしたら、足が引っかかって、少し割れ目が入ってしまいました。」とのことです。
Aくんと一緒にコーンバーの置いてある靴箱へ行きました。
そしたら、Aくんを心配に思う同じクラスのBくんの姿がありました。
私は、「学校のものを壊したことは仕方がない。失敗がその人を決めるのではない。失敗した後、どう動くかが大事。」と伝え、Aくんに、今後、どうするか聴きました。
Aくんは、教頭先生に正直に話して、謝りたいと言いました。
そしたら、Bくんが「Aくんが一人では心細いと思うから、僕も一緒に行くよ。」と言ってくれました。
本来なら行かなくていいのに、Aくんに付き添おうとするBくんの優しさや勇気に、私もAくんも心が温かくなりました。
そして、いざ、職員室へ。
Aくんが自分の言葉で教頭先生に状況を説明して、学校のものを壊したことを謝りました。Bくんは、廊下でずっとAくんを待ってくれていました。
Aくんが謝る横で、私も一緒に謝りました。
子どもが失敗すれば、親も謝る。担任も親と同じです。私は、クラスの子どもたちを我が子のように思っています。だから、一緒に謝りました。
教頭先生は、「壊したことは問題だけど、嘘をついたり隠したりせずに、正直に謝りに来たことはよかった。」と言ってくれました。
「今後は、このようなことがないように落ち着いて生活するように!」と注意を受けました。
職員室を出て、Bくんを見たAくんはホッとした表情でした。
そして、Aくんは、私に、
「先生、このことを家に電話して親に言いますか。」と心配そうに言ってきました。
最近、『説明責任』という言葉が教育界でもよく聞こえてきます。
子ども達のことを全て保護者に報告する。
いいことも悪いことも、大きなことも小さなことも全て。
私が先生になった頃は、子どもにとって重要なことだけを保護者の方に連絡をしていました。今の時代のように、何でも全て保護者に伝えるということは少なかったように思います。
そんな状況で、Aくんは、「先生、このことを親に言わないでほしい。」と言ってきました。
「先生、ぼくは、昔から、いっぱい いっぱい悪さをしてきました。
その度に学校から連絡が入り、お父さん・お母さんをがっかりさせてきました。
ぼくは、もう、お父さん・お母さんを悲しませたくないです。
ぼくは、もう二度とお父さん・お母さんをがっかりさせるようなことをしないと、先生に約束します。
だから、お願いです。家に連絡をしないでください。」
と言ってきました。
私は、すごく悩みました。
それは、後からになって保護者の方に伝えていないことが問題になったらどうしよう。保護者の方への説明責任があるのに、どうしたらいいのか・・・。
でも、Aくんの『親をがっかりさせたくない。もう二度と、親を悲しませたくない。』必死な思いが伝わってきました。
「Aくんがお父さん・お母さんを悲しませたくない気持ちは分かりました。
もう、お父さん・お母さんを二度と悲しませるようなことはしない。と、先生と約束できますか。」と尋ねると
Aくんは、力強い光輝く目で私を見て、大きくうなづきました。
そして、約束の握手をしました。
Aくんの心の眼が開いた瞬間でした。
コーンバーも弁償する必要もなく、テープを貼れば大丈夫な状況だったので、Aくんとの約束を優先することにしました。
次の日の昼休み、Aくんと私とコーンバーを修理をしました。そこへ、またBくんも来て、手伝ってくれました。
そして、Aくんがコーンバーを壊したことはみんなに分からないようにして、Bくんの優しい勇気ある行動を、みんなの前で褒めました。
Bくんの優しさが、私やAくんの心をとても温かくしてくれたことを伝えると、子ども達も感動したようで、Bくんを目標に、教室に優しさの輪が広がっていきました。
それから、Aくんはぐんぐん成長していきました。
私との約束をしっかり守って、周りに優しい立派な子になっていきました。
そして、年度末の3月。
私は、市外の学校へ転勤になりました。
離任式の日の放課後。Aくんの保護者の方から電話がありました。
「先生、色々とありがとうございました。息子は、先生が大好きでした。
息子が、先生は、近くの学校に転勤だから、また会えると安心していたんです。
でも、学校を調べたら、すごく遠い学校になってしまったと、ずっと泣いています。
最後に、電話で話をしたいと言ったので連絡しました。息子に代わります。」
「先生、一年間ありがとうございました。
ぼくは、これからも先生との約束を守って、がんばります。
また、学校に会いに来てください。」
Aくんの明るい元気な声を聴くことができました。
『Aくんが、これからも、私との約束を大切にして人生を歩いて行く。』
学校を旅立つ最後の日。
教師人生、最高の宝物をもらい、感動で涙が溢れてきました。
あの時は、すごく悩みましたが、Aくんにとって、どちらの道が成長できるのか必死に考えて、自分が信じる道を選んでよかったと思いました。
子ども達は、自分の都合の悪いことを親には言わないでほしいということもあります。
子ども達は、親に自分の都合よく話すことがあります。
だから、子どもが言わないでと言っても、親に言うべきときはきちんと言うことが大事です。
教師は、状況を見て、子どもにとって、どの道が最善なのか見極めることが大事です。
私自身、子どもに親に言わないでと言われても、子どものことを考え、報告したことは何度もあります。
教育に正解はありません。
だから、常に子どもと向き合い、子どもの心の声を聴き、子どものことを考え、子どものために最善と信じる道を選ぶこと。
選んだからには、覚悟して、腹をくくって歩いて行くこと。
そういう教師の姿勢が、子どもに伝わり、『子どもの成長』という『教師にとって最高の宝物』をいただけるのではないでしょうか。
『その子が悪い道に進む時に、一瞬でも親を悲しませたくない。と親の顔が浮かぶ子は、道を外すことがない。』と少年犯罪に関する研修会で学んだことがあります。
どの子も『親や家族を悲しませたくない』という気持ちが心の奥底にあります。
その心をしっかり掴み取り育んでいけたら、道を踏み外す子ども達も減っていくのではないでしょうか。
コメントを残す