志は高く 身は低く 実践は足元から。

 「先生、なぜ、トイレ掃除が好きなのですか。」
 「トイレには神様がいて、とても不思議な魔法の力があるから大すき。」

 今の私があるのは、トイレ掃除のおかげです。
 トイレ掃除のよさは、ゆっくりじんわりと心に染み込んでくる感じがします。

 私は、小学校5年生の頃からの夢だった先生になり、熱い思いで教育界の門をくぐりました。そして、知った現実の世界。

 森信三先生から教えていただいた「教育とは人生のタネ蒔きをすること」とは反対に、現場では「すぐに結果を出すこと」を求められ、一番大事なことに、一番大事ないのちが懸けられていないことに、とてもショックでした。

 そして、社会では、毎日のように子ども達の心の叫びによる凶悪な事件が多発し、それとは無関係のように時が流れる教育現場にいて、とても歯がゆい気持ちでいっぱいでした。

 「私は、何のためにここにいるのだろうか。」「何が正しいのだろうか。」と教師としての光を見失い、教育全体が本質を見失っているように思われました。

 「群れない なれ合わない 流されない」と心に誓って教育界に入った私でしたが、いつしか目の前の業務に追われ、孤独との闘いに疲れ、未熟な心の軸は折れそうになりました。

 そんな時、自分の道を求めて、夏休みにアジアに旅に出ました。

 北緯38度線から、北朝鮮の大空を見上げ、万里の長城に登り、秦の始皇帝陵に行きました。

 中国の歴史と国家力に感動する反面、貧富の差を目の当たりにし、なぜ、この国は発展し続けることができなかったのだろうかと思いました。

 そして、中国の高級ホテルの汚れたトイレを見て初めて気がつきました。

 日本は、「清く 正しく 美しく」と掃除を大切にしてきた民族です。

 孔子の「人は見ているものに心が似てくる」という言葉を思い出し、環境が人に与える影響の大きさを感じました。
 
 改めて、素晴らしい伝統と文化のある日本人であることを誇りに思い、美しい日本をつくって下さった先人の方々に感謝の気持ちでいっぱいになりました。

 国家の素晴らしさは、トイレに比例する。
 学校の素晴らしさは、トイレに比例する。
 

 大きな気付きでした。

 日本に帰って早速「トイレ掃除」に心を向けてみると『日本を美しくする会』があることを知りました。

 この会は、美しい日本づくりを目指して、学校や公共施設のトイレ掃除や街頭清掃をする会です。全国で会が開催されていて、掃除から学ぶという姿勢で、参加費を払って、トイレ掃除をします。

 一歩踏み出す勇気を持って「宮崎掃除に学ぶ会」に参加し、休日に、中学校のトイレ掃除をしました。

 学校の先生が、トイレ掃除に参加したのは、私が初めてだったようで、少し淋しい感じがしましたが、これから私が宮崎を変えていこうと強く思いました。

 そこから私の人生は大きく変わっていきました。
 

  自分が今やっていることは無駄ではないかと思われても、鍵山秀三郎先生の
「プールに水一滴」の言葉が支えてくれました。

 プールに水一滴とは、プールに水が一滴入っても目には見えない。しかし、毎日、一滴を入れ続ければ、必ずプールから水が溢れ出す瞬間がある。目には見えないけど、確実に一滴分の量が増えている。

 今は目には見えないけど、必ず成果が見える日がくるという意味です。

 その言葉を信じて、自分が信じる教育実践を積み重ねてきました。

 そして、採用3年目。大きな試練がやってきました。

 「6年生は学校の顔だから大変よ。ここは、大規模校だから大変よ。」  と周りに心配されるほど、6年担任への不安とプレッシャーに押し潰されそうでした。

 これでは、周りの大変という言葉に潰されてしまうと思い、『大変は大きく変わると書く。今年一年、自分を大きく成長させよう。』と心に誓い教壇に立ちました。

 気がつくと、必死に便器にすがっていました。掃除の時間になると、率先してトイレに行き、裸足になって掃除をしました。

 不思議なことに、裸足になって掃除をすることで、自分の心に気合いが入り、次第に心が強くなっていくのを感じました。

 最初は、トイレ掃除に抵抗を示していた子ども達も、私のトイレ掃除をする姿を真剣なまなざしで見つめ、自ら実践し始めました。

 そして、自分の家のトイレ掃除をする子ども達が増え、家族も喜び、笑顔の輪が広がっていきました。

 また、一人ひとりが様々な行事において、一歩踏み出す勇気を持って挑戦し、自分の殻を破り大きく成長していきました。

 輝く子ども達の姿から「人は何をいったかではなく 何をしたかで決まる」という大事なことを教えてもらいました。

 そして、教師は自分の後ろ姿で教育すること、いつも自分を磨き続けることが大切だと気づきました。

 教師が輝くことによって、必ず目の前の子ども達が輝き、教室が輝き、学校を輝き、日本が輝く。輝く日本を作りたい。

 私は、日本の教育の一筋の光になりたいです。

 教育の本質をみんなで考え学び合う。
 教育現場での喜びや苦しみを分かち合う。
 教師仲間みんなの心が一つにつながり合う。

 そんな教師仲間の輪を広げていきたいです。
 

 日本全国、熱い思いの先生方がつながりあって、支え合って、日本の教育がすばらしいものになり、日本がすばらしい国になってほしいと願っています。

 そのためにも、神様から与えられた場所で、大きな理想を掲げ、謙虚に学ぶ姿勢を忘れず、私のできることを始めました。

 『志は高く 身は低く 実践は足元から』

 私の『光ることば』が、みなさんの『こころのパワー』に、少しでもなりますように。真心を込めて丁寧に書いています。

 いつか、このさくら師範学校の桜が満開に咲き誇る日を目指して・・・。